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【コラム】長引く咳は秋花粉が原因?咳喘息の検査と対策

秋の訪れとともに、長引く咳に悩まされる方が増えてきます。「風邪は治ったはずなのに、咳だけが残って...」このような経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
実は、8月末から10月にかけて飛散するブタクサやヨモギといった秋の雑草花粉が、この長引く咳の隠れた原因となっていることがあります。これらの花粉は、単に鼻水や目のかゆみを引き起こすだけでなく、複雑なメカニズムを通じて慢性的な咳症状につながることが、最新の医学研究で明らかになっています。本記事では、秋の花粉がどのようにして長引く咳を引き起こすのか、そのメカニズムと適切な対処法について、科学的根拠に基づいて詳しく解説いたします。

当院では胸部X線検査や血液検査による特異的IgE検査などで原因を評価し、点鼻ステロイドや吸入薬による適切な治療をご提案します。咳が3週間以上続く場合は医療機関への受診を推奨いたします。
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秋の花粉と長引く咳の関係

秋の雑草花粉の特徴

秋の花粉症の原因となるブタクサやヨモギは、私たちの生活圏内に広く分布するキク科の植物です。河川敷、空き地、道路脇など、日常的に通る場所に自生しているため、知らず知らずのうちに花粉に曝露されている可能性があります。
これらの花粉は春のスギ花粉と比較して飛散距離は短いものの、生活圏内での濃度が高くなりやすいという特徴があります。特に朝の散歩やジョギング、通勤・通学時に症状が現れやすいのはこのためです。

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アレルギーから咳への経路

秋の雑草花粉によるアレルギー反応は、以下の3つの主要な経路を通じて長引く咳を引き起こします:

1. アレルギー性鼻炎と後鼻漏

花粉に対するアレルギー反応により、鼻粘膜に好酸球性炎症が生じます。この炎症反応により大量の鼻水が産生され、その一部が喉の奥に流れ込む「後鼻漏(こうびろう)」という現象が起こります。この後鼻漏が咽頭・喉頭を刺激し、持続的な咳反射を誘発するのです。

2. 気道過敏性の亢進

アレルギー反応により気道粘膜に炎症が生じると、気道の過敏性が著しく高まります。この状態では、通常なら問題にならない程度の刺激(冷気、乾燥、香り、会話など)でも咳が誘発されやすくなります。

3. 咳喘息の発症・増悪

アレルギー体質を持つ方では、花粉曝露が引き金となって咳喘息を新たに発症したり、既存の咳喘息が増悪したりすることがあります。咳喘息は気管支喘息の一表現型として位置づけられており、適切な治療を行わないと典型的な喘息へ移行する可能性があります。



セルフチェックと受診の目安

症状チェックリスト

以下の項目に該当する場合は、秋の花粉に関連した呼吸器症状の可能性があります:

□咳が3週間以上続いている
□夜間や早朝に咳がひどくなる
□運動したり冷たい空気を吸うと咳が出る
□鼻水や鼻づまり、後鼻漏がある
□目や鼻にかゆみがある
□市販の咳止め薬では改善しない
□毎年同じ時期に症状が出る

受診のタイミング

医学的には、咳の持続期間により以下のように分類されます:

・急性咳嗽:3週間以内
・遷延性咳嗽:3週間~8週間
・慢性咳嗽:8週間以上

3週間を超える咳は、ウイルス性上気道炎(いわゆる風邪)以外の原因を考慮する必要があります。特にアレルギー症状を伴う場合は、適切な診断と治療により症状の改善が期待できるため、早めの受診をおすすめします。

長引く咳の原因疾患

アレルギー性鼻炎による後鼻漏

アレルギー性鼻炎は、花粉などのアレルゲンに対する鼻粘膜の過敏反応により生じます。鼻粘膜の炎症により産生された鼻水が咽頭に流れ込む後鼻漏は、慢性咳嗽の重要な原因の一つです。適切な鼻炎治療により、後鼻漏に伴う咳症状の改善が期待できます。

咳喘息(Cough Variant Asthma)

咳喘息は、気管支喘息の一表現型として位置づけられる疾患です。典型的な喘息でみられる喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)を伴わず、慢性的な咳が主症状となります。アレルギーは咳喘息の重要な発症・増悪因子であり、秋の花粉曝露により症状が顕在化することがあります。
咳喘息の一部は典型的な喘息へ移行する可能性があるため、早期診断と適切な治療介入が重要です。

感染後咳嗽の遷延

ウイルス感染後に気道上皮が損傷を受けると、アレルゲンに対する感受性が高まります。この状態で花粉に曝露されると、通常より強い炎症反応が生じ、咳症状が遷延することがあります。

その他の鑑別疾患

長引く咳の鑑別診断として、以下の疾患も考慮する必要があります:

・胃食道逆流症(GERD):胃酸の逆流による咳
・ACE阻害薬による咳:降圧薬の副作用
・慢性副鼻腔炎:細菌感染による膿性後鼻漏
・心不全:特に高齢者では鑑別が重要


検査について

胸部X線検査

長引く咳の評価において、胸部X線検査は最も基本的かつ重要な検査です。肺炎、肺結核、肺がん、心不全など、重篤な疾患を除外するために必須となります。アレルギー性疾患では通常、胸部X線に異常所見は認められません。

血液検査(特異的IgE検査)

特異的IgE検査は、アレルギーの原因となるアレルゲンを同定する検査です。

【検査の意義】

・ブタクサ、ヨモギなど秋の雑草花粉に対する感作の確認
・アレルギー性鼻炎の診断根拠
・咳喘息におけるアレルギー因子の評価
・適切な環境整備指導の根拠

当院では、秋の雑草花粉を含む複数のアレルゲンを同時に検査できるパネル検査を実施しています。
この検査により、症状の原因となっているアレルゲンを特定し、効果的な治療戦略を立てることが可能となります。

その他の検査

必要に応じて以下の検査を追加で実施する場合があります:
・心電図・BNP検査:心不全の除外(高齢者、息切れを伴う場合)
・血液一般検査:炎症反応や好酸球増多の評価

■治療法について

アレルギー性鼻炎の治療

点鼻ステロイド薬

鼻粘膜の炎症を直接的に抑制する薬剤で、アレルギー性鼻炎の第一選択薬として位置づけられています。全身への影響が極めて少なく、長期使用においても安全性が確立されています。効果発現まで数日を要するため、症状出現前からの予防的使用も推奨されます。

第二世代抗ヒスタミン薬

従来の抗ヒスタミン薬と比較して中枢神経系への移行が少なく、眠気などの副作用が軽減されています。1日1回の服用で24時間効果が持続し、鼻症状だけでなく眼症状にも有効です。

鼻洗浄

生理食塩水による鼻洗浄は、鼻腔内のアレルゲンを物理的に除去し、後鼻漏を軽減する有効な補助療法です。薬物療法と併用することで、より高い治療効果が得られます。

咳喘息の治療

吸入ステロイド薬(ICS)

気道の炎症を抑制する基本治療薬です。アレルギー性炎症を効果的に制御し、気道過敏性を改善します。局所投与により全身への影響を最小限に抑えながら、高い治療効果を発揮します。

長時間作用型β2刺激薬(LABA)

気管支平滑筋を弛緩させ、気道を拡張する薬剤です。単独使用は推奨されず、必ずICSと併用します。現在では、ICS/LABA配合剤として一つの吸入器で両成分を投与できる製剤が主流となっています。

ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)

アレルギー反応のメディエーターであるロイコトリエンの作用を阻害する内服薬です。咳喘息に対する有効性が確認されており、特にアレルギー性鼻炎を合併する症例では、両疾患に対する効果が期待できます。


秋の雑草花粉による長引く咳は、アレルギー反応を介した複雑なメカニズムにより生じます。アレルギー性鼻炎による後鼻漏、咳喘息の発症・増悪、感染後咳嗽の遷延など、複数の病態が関与することがあります。適切な診断には、胸部X線検査による重篤疾患の除外が最も重要であり、アレルギーの関与が疑われる場合には、必要に応じて特異的IgE検査を検討します。
治療は、点鼻ステロイドや吸入薬を中心とした薬物療法により、効果的な症状コントロールが可能となります。咳が3週間以上続く場合は、早めの受診により原因を特定し、適切な治療を開始することが大切です。当院では、皆さまの症状と生活スタイルに応じた個別化医療を提供し、快適な秋の生活をサポートいたします。長引く咳でお悩みの方は、我慢せずにご相談ください。


監修
わかばハートクリニック 医師
田代 紘朗

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参考文献

  1. Global Initiative for Asthma. (2024). Summary Guide for Asthma Management and Prevention. GINA Publications.
  2. European Respiratory Society. (2020). ERS guidelines on the diagnosis and treatment of chronic cough in adults and children. Eur Respir J, 55(1), 1901136.
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