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2025年08月20日
- わかばハートクリニック
- コラム
【コラム】暑い夏に増える「動悸」―放っておくと危険なサインとは?
夏の暑さが厳しくなると、「胸がドキドキして苦しい」「最近、動悸が増えた」といった症状を訴える方が少なくありません。一時的な症状と思われがちですが、実は 心房細動などの不整脈が隠れている可能性 もあります。特に、胸の痛み・息苦しさ・失神を伴う動悸は注意が必要で、緊急受診を要することもあります。当院では、24時間ホルター心電図よりも発作性不整脈の検出率が高いとされる パッチ型心電図 を用いた検査で、夏に増える動悸の原因を丁寧に評価しています。
●夏に動悸が増える3つの理由
1. 脱水による循環血液量の減少
夏の暑さによる発汗で体内の水分が失われると、循環血液量が減少します。心臓は限られた血液量で全身に酸素を供給するため、心拍数を増加させて対応します。この代償性の頻脈(心拍数の増加)が動悸として自覚されるのです。特に高齢者や心疾患をお持ちの方は、軽度の脱水でも症状が顕著に現れる傾向があります。
2. 温度差による自律神経への負荷
冷房の効いた室内と高温の屋外を往復する際の急激な温度変化は、体温調節を司る自律神経に大きな負担をかけます。交感神経と副交感神経のバランスが崩れることで、安静時にも心拍数の上昇や動悸、息切れなどの症状が現れやすくなります。
3. 電解質バランスの異常
発汗により、水分とともにナトリウムやカリウムなどの電解質(体の電気的バランスを保つミネラル)が失われます。これらの電解質は心臓の正常な電気的活動に不可欠であり、その異常は期外収縮(脈が飛ぶ感じ)や頻脈性不整脈の誘因となることが、日本循環器学会のガイドラインでも指摘されています。
●危険な動悸の見分け方―緊急受診が必要な症状
動悸には医学的介入を要しない生理的なものと、緊急対応が必要な病的なものがあります。下記の症状を伴う場合は、医療機関への受診が推奨されます。
緊急受診が必要な症状

早期受診を推奨する症状
・持続的または反復する動悸
・脈の欠落感(期外収縮の可能性)
・めまい、ふらつき、立ちくらみ
・軽労作での著明な息切れ
・夜間の動悸による覚醒
これらの症状は、米国心臓病学会(ACC)や欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでも「レッドフラグ(危険信号)」として認識されており、早期の精査が推奨されています。
●パッチ型心電図による精密診断
通常の心電図検査は検査室での数十秒間の記録に限られるため、間欠的に出現する不整脈の検出は困難です。従来の24時間ホルター心電図でも、週に数回程度しか起こらない発作性不整脈は見逃される可能性があります。そこで当院では、より長期間の観察が可能なパッチ型心電図検査をご用意しています。
写真:パッチ型ホルター心電計「ePatch」
●パッチ型心電図検査の特徴
1. 長時間連続記録による検出率の向上
パッチ型心電図は最大5日間の連続記録が可能です。2024年のESCガイドラインおよび複数のメタ解析において、記録時間の延長により不整脈の検出率が有意に向上することが示されています。
特に発作性心房細動(突然起こって自然に治まる不整脈)の検出において、その有用性が確立されています。
2. 日常生活への影響を最小限に
小型の防水パッチを胸部に貼付するだけで、従来のホルター心電図のような複数のリード線は不要です。装着中はシャワー浴も可能ですが、入浴や水泳、激しい擦過は避ける必要があります。なお、MRI・CT・レントゲン検査を受ける際は、事前に取り外していただく必要があります。
3. 睡眠中の不整脈検出
夜間に発生する不整脈は自覚症状を伴わないことが多く、パッチ型心電図の長時間記録により、これらの無症候性不整脈の検出が可能となります。
*睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、専用の検査をご案内いたします。
【検査の流れ】
1.初診時の評価:症状の詳細な問診と身体診察により、検査の適応を判断
2.装着と説明:看護師による丁寧な装着指導(ご希望により機器の自宅郵送も可能)
3.日常生活の継続:装着したまま通常の生活を送っていただきます
4.機器の返却:数日間の記録後、郵送にて返却
5.結果説明と治療方針の決定:専門医による詳細な解析結果の説明
皆さまの症状やライフスタイルに合わせて、最適な検査方法をご提案させていただきます。
●原因に応じた治療選択
動悸の原因は多岐にわたり、正確な診断に基づく個別化された治療が重要です。
・期外収縮:多くは経過観察で十分ですが、頻度や症状により薬物療法を検討
・心房細動:抗不整脈薬、抗凝固療法、カテーテルアブレーションなど、病型や合併症に応じた
治療選択
・頻脈性不整脈:β遮断薬などによるレートコントロール
心臓以外の原因(甲状腺機能亢進症、貧血、精神的ストレスなど)も考慮し、包括的な評価を行います。症状やライフスタイルに合わせて、皆さまに最適な治療法をご提案いたします。
●エビデンスに基づく生活管理
1. 適切な水分摂取
口渇を感じる前の定期的な水分補給が重要です。特に起床時と就寝前の水分摂取を習慣化することを推奨します。
2. 環境温度の管理
室内外の温度差を最小限にし、急激な温度変化を避けることで自律神経への負担を軽減します。
3. 規則的な睡眠習慣
睡眠不足は自律神経機能を乱す要因となります。一定の就寝・起床時刻を維持し、7時間以上の睡眠確保を目標とします。
4. アルコールとカフェインに関する最新知見
・アルコール:2023年のACC/AHAガイドラインでは、心房細動の二次予防においてアルコールの最小化または禁酒が推奨されています
・カフェイン:同ガイドラインでは、心房細動予防を目的としたカフェインの一律制限は利益がないとされています。ただし、個人的に症状を誘発する場合は摂取量の調整を検討します
夏の動悸は、単なる季節的な不調ではなく、潜在的な心疾患の重要なサインである可能性があります。当院では、パッチ型心電図検査を含む包括的な診断アプローチにより、皆さまの症状を詳細に評価いたします。最新のガイドラインに基づいた治療と生活指導により、安心して日常生活を送れるようサポートさせていただきますので、一人で悩まずに、心配な症状がある方は、お気軽にご相談ください。
自分に合った治療法を一緒に見つけていきましょう。
監修
わかばハートクリニック 医師
田代 紘朗
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ePatch心電図検査に関する費用・副作用・リスクについて
費用:保険適用(3割負担の場合、約5,250円)
副作用:皮膚のかぶれ、かゆみ(稀)
リスク:検査自体に重大なリスクはありません。装着部位の皮膚トラブルが生じた場合は速やかにご連絡ください。
出典
- 日本循環器学会/日本不整脈心電学会. (2022). 不整脈の診断とリスク評価ガイドライン2022. 日本循環器学会.
- European Society of Cardiology. (2024). 2024 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation. European Heart Journal, 45(36), 3314-3414.
- American College of Cardiology/American Heart Association. (2023). 2023 ACC/AHA/ACCP/HRS Guideline for the Diagnosis and Management of Atrial Fibrillation. Circulation.
- Steinhubl, S.R., et al. (2018). Effect of a Home-Based Wearable Continuous ECG Monitoring Patch on Detection of Undiagnosed Atrial Fibrillation. JAMA, 320(2), 146-155.
- Turakhia, M.P., et al. (2017). Rationale and design of a large-scale, app-based study to identify cardiac arrhythmias using a smartwatch: The Apple Heart Study. American Heart Journal, 207, 66-75.

