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2025年08月01日
- コラム
エアコンで悪化する"夏の長引く咳"3つの原因
暑い夏がやってきて、エアコンなしでは過ごせない季節になりましたね。
当院では「エアコンをつけると咳が出るんです」「夏になってから咳が止まらなくて...」というご相談が増えてきました。
夏場のエアコン使用で咳が長引く主な原因は、カビ・ホコリによるアレルギー、室内の乾燥、急激な温度変化の3つが挙げられます。
特に日本の高温多湿環境では夏型過敏性肺炎という特有の病気も発生し、3週間以上続く咳は専門的な診断が必要な場合もあります。
今回は、エアコンと咳との関係性や対策についてなどご紹介いたします。
●なぜエアコンで咳が出るのか?3つの主要メカニズム
1. カビ・ホコリによるアレルギー反応
エアコン内部は、湿度が高くてカビやホコリがたまりやすい場所なのです。
特に、冬の間使っていなかったエアコンを久しぶりに動かすと、内部にたまったアレルギーの原因物質が風と一緒に部屋中に舞い散ってしまいます。これを吸い込むと、のどや気管支がムズムズして咳が出やすくなります。
また、カビの胞子がエアコンの風に乗って部屋の隅々まで運ばれるため、アレルギー体質の方は特に反応しやすく、咳喘息やアトピー咳嗽が悪化することがあります。お掃除は面倒に感じるかもしれませんが、フィルターのお手入れと年に一度の内部クリーニングで対策ができます。
2. 室内空気の乾燥による気道刺激
エアコンは涼しくしてくれる一方で、空気中の水分も一緒に取り除いてしまうため、部屋が乾燥しやすくなります。乾いた空気は、のどや気管支にとっては刺激になります。
特に寝ている間は口で息をすることが多いので、乾燥の影響をダイレクトに受けやすいです。
のどや気管支は、適度な湿り気があることで外からの刺激から守られていますが、エアコンで乾燥した環境では、この大切な防御機能が弱くなってしまい、ちょっとした刺激でも咳が出やすくなってしまうことがあります。
3. 急激な温度変化による気道反応
暑い外から涼しい室内に入った時、「ひんやりして気持ちいい!」と感じる一方で、この急な温度の変化が咳の原因になることがあります。
私たちの気管支は温度の変化にとても敏感で、特に気管支喘息やアトピー咳嗽の傾向がある方は、
この温度差で症状が出やすくなります。エアコンの設定温度を外の気温と極端に違わないようにすることが、温度差による咳を防ぐコツです。
● 夏特有の危険な咳:「夏型過敏性肺炎」
日本の夏ならではの病気として、「夏型過敏性肺炎」があります。
原因はトリコスポロン・アサヒというカビの一種で、気温20℃以上、湿度60%以上のジメジメした環境を好みます。適切な診断と治療を受けないと症状が長引いてしまうため、以下、当てはまる症状がある方は早めに医療機関を受診することを推奨します。
【こんな症状があったら要注意】
- 家にいると咳がひどくなるのに、外出すると楽になる
- 38℃くらいの熱が出る
- 息苦しさや胸の重い感じがする
- 6-9月の暑い時期に症状が出やすい
古い木造の家や畳、そしてエアコンの中がこのカビの住みかになりやすく、特に西日本で多く見られます。発症頻度は高くありませんが、早期発見・早期治療が症状改善の鍵となります。
●夏の長引く咳で考えられる主な疾患(代表例)
夏の時期に長引く咳の原因はさまざまですが、その中でも代表的な疾患をご紹介します。
・咳喘息
特徴:夜間・早朝の乾いた咳、運動や冷気で悪化
・アトピー咳嗽
特徴: のどのイガイガ感を伴う咳
・ 副鼻腔気管支症候群
特徴:痰を伴う湿った咳、鼻症状あり
これらは数ある原因の一部で、症状が似ているため、専門的な検査による正確な鑑別診断が重要です。他にも感染症(新型コロナウイルス感染症を含む)、胃食道逆流症、薬剤性など、さまざまな要因が考えられるため、長引く咳でお困りの際は医療機関での詳しい検査をお勧めします。
●エアコン咳を予防する実践的対策
1. 定期的なエアコン清掃
フィルターは定期的に、内部クリーニングは年に1回以上行うことが推奨されます。特に使用開始前の清掃が重要です。また、専門業者による高圧洗浄で、内部のカビやホコリを徹底的に除去することで、アレルゲンの飛散を防ぐことができます。
2. 適切な温度・湿度管理
エアコンの設定温度は外気温との差を小さくすることを心がけましょう。急激な温度変化は気道を刺激する可能性があります。そして、湿度は40-60%を保つよう、必要に応じて加湿器の併用も検討してください。
3. 空気の循環と換気
定期的に窓を開けて換気を行い、新鮮な空気を取り入れましょう。
サーキュレーターや扇風機を併用して、室内の空気を循環させることも効果的です。
4. 就寝時の工夫
夜間は特に気道が乾燥しやすく、咳が出やすい時間帯です。エアコンの風が直接当たらないよう風向きを調整し、適度な加湿で気道の乾燥を防ぐことが大切です。症状がひどい場合は、就寝時にマスクを着用することで、吸い込む空気の湿度を保つことができますよ。
5. 体調管理と健康維持
規則正しい生活リズムと十分な睡眠により、気道の防御機能を維持しましょう。
バランスの良い食事と適度な運動も、呼吸器の健康維持に重要です。
●医療機関を受診すべきタイミング
以下の症状がある場合は、早めの受診をお勧めします:
- 咳が3週間以上続いている
- 市販の咳止め薬が効かない
- 発熱や息切れを伴う
- 血痰が出る
- 胸痛がある
- 夜間の咳で睡眠が妨げられる
夏の咳は、ちょっとした工夫で改善できることが多いものです。
環境を整えることと適切なお薬を組み合わせれば、多くの場合、症状の改善が期待できますので、
長引く咳でお困りの際は、一人で悩まずに早めにご相談いただければと思います。▶診療予約はこちらから
監修
わかばハートクリニック 医師
田代 紘朗
参考
1. 日本呼吸器学会. (2021). *The Japanese Respiratory Society guidelines for the management of cough and sputum (digest edition)*. Respiratory Investigation, 59(4), 535-563.
2. 日本呼吸器学会過敏性肺炎診療指針作成委員会. (2022). *Clinical practice guide 2022 for hypersensitivity pneumonitis*. Respiratory Investigation, 60(6), 754-788.
3. D'Amato, G., et al. (2018). *The impact of cold on the respiratory tract and its consequences to respiratory health*. Clinical and Translational Allergy, 8, 20.

