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2025年11月14日
- わかばハートクリニック
- コラム
【コラム】生活習慣病を放置していませんか?インフルエンザが心血管リスクを高める理由と最新の予防エビデンス
高血圧・脂質異常症・糖尿病をお持ちの方は、インフルエンザ感染をきっかけに心筋梗塞や脳卒中などの重大な合併症を起こしやすいことが分かっています。近年の研究では、ワクチン接種が主要心血管イベント(MACE)を約34%減少させることが示されており、特に心血管リスクの高い方で効果が顕著です。流行期前のワクチン接種と、日頃からの血圧・脂質・血糖管理が、皆さまの健康を守る大切な柱となります。健診で異常を指摘された方は、放置せずに早めにご相談ください。

■福岡市でインフルエンザ注意報が発令されました
皆さま、体調はいかがでしょうか。
2025年11月6日、福岡市はインフルエンザ注意報を発出しました。直近週(第44週:10月27日〜11月2日)の市内定点医療機関あたりの患者報告数は10.88と、注意報基準値の「10」を超えています。市内の学校でも学級閉鎖が増加しており、今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性が懸念されています。
「毎年インフルエンザワクチンを打った方がいいのかしら」「高血圧の薬を飲んでいるけれど、ワクチンは本当に必要?」----外来でこうしたご質問をよくいただきます。
実は、健診で「血圧が高め」「コレステロール値に注意」「血糖値が気になる」と言われた経験がある方こそ、インフルエンザ対策が重要なのです。今回は、生活習慣病とインフルエンザの関係、そして最新の予防エビデンスについてお話しします。
■インフルエンザと生活習慣病----実は深い関係があります
インフルエンザは高熱や倦怠感といった急性症状だけでなく、心臓や血管に思わぬ負担をかけることがあります。特に高血圧症・脂質異常症・糖尿病といった生活習慣病をお持ちの方は、感染を機に心筋梗塞や脳卒中、心不全の悪化といった重篤な合併症を起こしやすいことが、国内外の研究で明らかになっています。「自分にはまだ関係ない」と思われるかもしれません。でも、健診で異常を指摘されたまま放置していませんか。まだ症状がないからと先延ばしにしていませんか。実は、そうした"未治療の状態"こそが、インフルエンザという"きっかけ"から大きな病気につながるリスクを高めてしまうのです。
■なぜ生活習慣病の方はインフルエンザに弱いのか
感染が引き金になる心血管イベント
高血圧・脂質異常症・糖尿病があると、血管がすでに動脈硬化を起こしていたり、血液の流れが悪くなっていたりすることが少なくありません。こうした状態でインフルエンザに感染すると、体内で炎症反応が強まり、血管の内側にこびりついていたプラーク(脂肪の塊)が不安定になります。その結果、血栓ができやすくなり、心筋梗塞や脳卒中を引き起こすリスクが高まってしまうのです。
高血圧の方への影響
血圧が高い状態が続くと、血管の壁に常に負担がかかっています。インフルエンザによる発熱や脱水で血圧の変動が大きくなると、脳出血や心不全のリスクが高まります。普段から血圧管理ができていない方は、特に注意が必要です。
脂質異常症の方への影響
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高い方は、血管の内側にプラークが溜まりやすい状態です。感染による炎症でこのプラークが破れると、血栓が形成されて心筋梗塞や脳梗塞につながることがあります。
糖尿病の方は特に注意が必要です
糖尿病をお持ちの方は、感染症全般に対する抵抗力が下がりやすく、インフルエンザも重症化しやすい傾向があります。高血糖状態が続くと免疫機能が低下し、肺炎などの合併症を起こしやすくなります。
さらに、インフルエンザによる発熱や食欲低下で血糖コントロールが乱れ、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)や高血糖昏睡といった急性合併症につながることもあります。日本感染症学会や米国糖尿病学会(ADA)は、「糖尿病患者さまには毎季のインフルエンザワクチン接種を推奨する」と明記しています。
■ワクチン接種の効果----最新のエビデンスが示すこと

心血管イベントを大幅に減らす可能性
「ワクチンって、熱や咳を防ぐだけじゃないの?」と思われるかもしれません。実は近年の研究で、インフルエンザワクチンが心筋梗塞や脳卒中、心不全といった重大な心血管イベントを減らす可能性があることが分かってきました。2022年に発表された海外の大規模メタ解析(6つのランダム化比較試験、約9,000人を統合した分析)では、ワクチン接種によって主要心血管イベント(MACE)が約34%減少したと報告されています。特に最近心筋梗塞を起こした方や急性冠症候群(ACS)の患者さまでは、ワクチン接種の効果がより顕著でした。
もちろん、すべての生活習慣病の方に必ずこれだけの効果があるとは言えませんが、特に心血管リスクの高い方では重要な予防策の一つと考えられています。
「治療を受けていない」ことが最大のリスク
ここで大切なのは、こうした研究の多くが「すでに医療機関で管理を受けている方」を対象にしているということです。つまり、健診で異常を指摘されたまま放置している方、高血圧や脂質異常症があるのに治療を受けていない方は、ワクチンを接種しても十分な予防効果が得られない可能性があります。
当院では、「ワクチンを打てば安心」ではなく、「日頃からの血圧・脂質・血糖の管理+ワクチン接種」のセットで考えることをお勧めしています。
流行期前に「ワクチン接種+基礎疾患の管理」を。糖尿病・高血圧・脂質異常症の方は主治医に今季の接種と薬剤調整を相談しましょう。
■健診結果を放置していませんか----早めの受診が鍵です

「血圧が高いと言われたけど、症状がないから様子を見ている」
「コレステロールや血糖値が気になるけど、まだ大丈夫だろう」
こうしたお声をよく耳にします。確かに、生活習慣病の初期には自覚症状がほとんどありません。しかし症状がない"静かな期間"にこそ、血管は徐々にダメージを受け続けています。
健診で「要再検査」「要精密検査」「要医療」と指摘されたら、それは体からの大切なサインです。高血圧・脂質異常症・糖尿病は、早期に発見して適切に管理すれば、合併症を大幅に減らすことができます。
当院でできること
当院では、健診結果をお持ちいただければ、その場で状態を評価し、必要な検査や治療をご提案できます。「結果の見方が分からない」「どう対応すればいいか迷っている」という方も、どうぞ遠慮なくご相談ください。流行期を前に、まずはご自身の血圧・脂質・血糖の状態を確認してみませんか。
■皆さまの健康を守るために
毎年のワクチン接種と日頃の血圧・脂質・血糖管理によって、インフルエンザに伴う合併症のリスクを減らすことができます。最新の研究でも、ワクチン接種が心血管イベントを約34%減少させる可能性が示されています(特に心血管リスクの高い方で効果が顕著です)。
しかし、何よりも大切なのは「自分の体の状態を知り、適切な治療を受けること」です。健診で異常を指摘されたまま放置している方は、ぜひこの機会に一歩を踏み出しましょう。
当院では、皆さまのライフスタイルや体調に合わせて、最適な予防策と治療法をご提案しています。「今年はどうしようかな」と迷われている方、「健診結果が気になる」という方は、どうぞお気軽にご相談ください。私たちは、皆さまが安心して日常生活を送れるよう、全力でサポートいたします。一人で悩まず、まずは当院にお声がけください。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 健診で異常を指摘されましたが、症状がありません。いつ受診すべきですか?
症状がなくても、できるだけ早めの受診をお勧めします。高血圧・脂質異常症・糖尿病は自覚症状がないまま進行するため、「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれています。特にインフルエンザ流行期を前に、基礎疾患の管理状態を確認しておくことが重要です。「要再検査」「要精密検査」は3か月以内、「要医療」は1か月以内を目安にご相談ください。
Q2. 生活習慣病があると、インフルエンザワクチンの副反応は強くなりますか?
いいえ、基礎疾患があるからといって副反応が強くなるわけではありません。主な副反応(接種部位の痛み・腫れ・発熱・倦怠感など)は通常2〜3日以内に治まります。むしろ、糖尿病・高血圧・脂質異常症をお持ちの方こそ、インフルエンザ感染による重症化リスクが高いため、ワクチン接種が強く推奨されています。ご心配な点がある場合は、接種前に医師にご相談ください。
監修
わかばハートクリニック 医師
田代 紘朗
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参考文献
- 福岡市. (2025). 【注意報】福岡市内でインフルエンザが急増しています. 福岡市公式サイト.
- 日本感染症学会. (2025). 2025/26シーズンに向けたインフルエンザワクチン接種に関する考え方とトピックス. 日本感染症学会公式サイト.
- Behrouzi B, et al. (2022). Association of Influenza Vaccination With Cardiovascular Risk: A Meta-analysis. JAMA Network Open, 5(4):e228873. DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2022.8873
- 厚生労働省. (2024). インフルエンザワクチン(季節性)定期接種に関する情報. 厚生労働省公式サイト.
- American Diabetes Association. (2024). Standards of Care in Diabetes--2024. Section 4: Comprehensive Medical Evaluation and Assessment of Comorbidities. Diabetes Care, 47(Supplement 1).




